No.001

小さく住むこと/敷地全体を計画すること

宮崎県宮崎市の住宅 下北方の家

宮崎市に建つ建築家自身の自邸でもある『下北方の家』。当初夫婦2人だけの住宅として計画されました。子供が増えたら北側の庭に小屋程度の大きさを増築すれば良い、建築にもいろいろな場所があるように、外部空間にもいろいろな場所があると良いなと思って建築されているそうです。

『当時は独立当初で仕事もあまり無く、私は東京にいて妻は宮崎にいるような状況で、ちょうど妻の実家の建て替えをしようという話はずっと話に出ていました。結婚してから子供がなかなか出来なかったこともあり、ずるずると延ばしていた計画を独立を機に本格的に考え始めたようなものです。』(伸彦氏)

1度見積もりをとって、確認申請を出す直前の案を破棄し、出来たのがこの案だと伺いました。

『最初の案は結局、お金の問題もあり断念しました。そこで吹っ切れた部分があります。独立当初の初めての新築住宅でしたし、自意識が強く背伸びしていたようにも思います。結果、自分が良いと思うものをシンプルに形にしました。』(伸彦氏)

『要望を言ったのは台所を部屋にしたいということくらいでした。結局、主人は自分がどうしたいというよりは、私(奥様)が住むイメージを膨らませて設計したようです。主人の要望は庭についてばかりだったような気がします。』(奥様)

現在も伸彦さんは東京と宮崎を行き来しながら設計活動をしていて、この自宅にいる時間は月の1/3程度だという。

建築を着工してすぐに子供も授かったそう。将来の増築の可能性を考えて建築を小さく建てて、可能性としての庭を考えていて良かったと思ったそうです。

『結果的に2拠点に住んでみて東京と宮崎という両極端な場所ということもありますが、それぞれの良さを感じます。自宅はふと顔を上げると緑が見えたり、風を感じられたりします。それは東京ではあまり感じられない場所ですね。事務所も横にあるのですが、ほとんど自宅で仕事していることが多いです。』(伸彦氏)

『主人の宮崎での仕事の大半は住宅ですが、宮崎のクライアントさんの多くがこの自宅を見られて、そしてここで打ち合わせなどをされますね。だから出来た空間と大きくブレがないのが良いかもしれませんね。この住宅の良いところも、もう少しこうしておけば良かったというところも私から新しいお施主さんに共有していますね。』(奥様)

『この住宅は延べ床が19坪程度で、実際は17坪程度の居住スペースですので小さいですが、過不足ない空間になってます。一般的に、夫婦に子供が2人いるような家庭のクライアントには、この住宅にあと子供部屋を2つで25坪から30坪程度で建てられますよ、などイメージがつきやすいのかと思います。』(伸彦氏)

リビングはしっかりとした広さを確保して、要所に収納スペースを設ける。素材は、経年変化でも味になるようにできるだけ自然素材に。家事動線をよく考えて、全てを開くのではなく、少し1人になれるようなスペースも設計する。光の入れ方や通風、何もない壁やフロアの余白をとること。できれば見える場所に緑を植えて欲しい。それは宮崎で続いている住宅設計に生かされているそう。住宅のクライアントさんだけでなく、友人や知人などのお客さんを招くことも多いそう。

『壁を漆喰にしているせいか焼肉などをした次の日には匂いは消えていますし、実は犬がいるのですが犬の匂いもしないですし、梅雨時期の湿気もあまり感じないです。杉のフローリングは対照的に犬の傷だらけで、特注の木製建具は梅雨の時期はなかなか開けるのにコツが要ります。主人は実験と言っていますが、床下のエアコンなど温熱環境も考えられていると思います。』(奥様)

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初めて仕事をする工務店さんにも自宅を見てもらって説明するとわかってもらえると言います。

『一見普通に見えると思いますが、ディテールやスケールや素材については大事にしていて、そしてやっぱりものづくりが好きなので、既製品にはないもので設計することが多いので自宅を見てもらうと理解されやすいですね。』

『京都のかみ添さんの壁紙を扉に貼ったり、ヒノキ工芸さんにダイニングテーブルとTV家具と格子建具や一部扉を作ってもらったり、若い時から買いためた家具はバラバラで、自分の趣味的な部分もありますが、基本はシンプルであまり色のない空間になっていると思います。クライアントにはベースの空間に自分の趣味性を追加していって欲しいです。それぞれの施主の持ち物や趣向で建築が変わって行くのが面白いと思っていますし、それ許容できる空間を設計したいと思っています。』(伸彦氏)

お子さんも来年小学生になるそうです(2021年)。そろそろ増築も考えていると言います。伸彦さんは建築家として、今後も家族の成長とともに建築が変わって行くのが面白いと感じているそうです。

『主人の設計した方の家に伺うことも多く、それぞれの家を羨ましく感じることもありますが、この家は私にぴったりでやっぱりここが自分の家だと感じます。多分将来にかけて少しずつ変わって行くとは思いますが、それも楽しみに暮らしていきたいと思っています。』(奥様)

『庭に少し手を入れて畑を作りましたので、宮崎にいるときは野菜でも作りたいなと思っています。それとお肉でBBQしたり。10年後、20年後にこの家がどうなって行くかが楽しみです。建築家としては理念も大事ですが、若い時にはあまり気づかなかった暮らしや生活が大事だなと思ってきました。』(伸彦氏)

建築場所:宮崎県宮崎市
建築概要:木造平屋建て 家族構成:夫婦+子供
床面積 :69.01㎡

Interview&text:kang
Photo:見学友宙
※2016年の撮影写真をもとに2020年にインタビューをして再構成したものです.