宮崎県宮崎市佐土原町の住宅 下那珂の家
佐土原町はもともと宮崎県佐土原町に市町村区分されていた。いわゆる平成の大合併で2006年に宮崎市に合併され、今は宮崎市のベッドタウンとしての顔を併せもつ。今回の下那珂の家の建つ場所は宮崎市の中心や空港からも比較的に近く、周りに公園や自然も多いエリアである。
山田伸彦建築設計事務所の宮崎事務所では住宅を設計することが多いのだそう。そして平屋の要望がその多くを占める。山田さんにお聞きすると施主の中で最年少記録を更新した若いお二人。夏前のちょうど気持ちの良い時期に自宅で話をお聞きしました。今回は山田伸彦建築設計事務所にとっては比較的に珍しい立体的なスキップフロアで2階建の若夫婦のお話しです。
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「ワンルームマンションで同棲を始めてそのあとに結婚、「子供が出来たらあそこには住めないよね。」と思っていました。子供が出来る前に建ててしまえば2回引っ越さないで良いからと具体的に家づくりを考え始めました。」(お二人)
−地元の工務店と検討は進んでいたようですが、工務店とはこれで良いのかなと迷いながらの検討で、結果的には価値観が合わなくてお断りをしてそして、建築家との家づくりに切り替えました。
WEBで何人かの建築家を探し当てて、そのなかでも山田伸彦設計事務所のホームページを見てまずは会ってみようと思いました。最初は敷居が高いと感じましたが、思い切ってメールしたら、すぐにメールが返ってきたところから、面談日時が決まりそれからとんとん拍子に家づくりは始まりました。
「最初は緊張していたのか、今の明るくて朗らかなお二人の感じではなくて、家づくりに疲れているような感じがしました。今までの家づくりの経緯などを聞いていると消去法で家づくりを考えているような印象もあり、それはもったいないなと思いました。どういった暮らしがしたいのか、好きなものなど、雑談的に色々と話をしていくうちに諦めなくても良いものまでも諦めているように思って、お二人の人柄を見て きっと素敵な家になるような気がしたのでそのままお伝えしました。そしたら2人の顔に後光がさすようにパッと明るくなり、そこからどんどんと進んでいった感じです。」 (山田氏)
−お二人は工務店との検討段階で半分決まりかけていた土地をやめ、新たに土地探しから始めました. 土地探しには山田さんと懇意にされている地元の不動産屋さんである”ミライエ”の大石さんもチームに入ってもらい、自分たちでは検討に入らないような土地でも可能性を捨てずにリストアップしてもらいました. 家づくり全体にかかる費用をトータルで適正に検討し、配分してもらえたようです。
「メリットデメリットを総合的に検討いただき、親身になって対応してもらえました。最終的にはこの窓の先にある景色や周りの田んぼを見たときにここにしたいなと思いました。」(お二人)
当初考えていた土地の予算も削減できたようです。
分譲された土地の一番奥で、崖条例がかかる土地で建築の面積はあまりとれない。山田さんはご要望であった平屋ではなく、2階建てで南側にメガホン状に建てることで両側の敷地からの色々が気にならず、南側の敷地の向こうの向こうまで眺望がとれ、擁壁下からの目線は気にならない、そんな土地はとても魅力的に感じたそう。最終的に決まった2階建であれば、2階からの眺望が変化もありまた良いだろうと思ったようです。
「自分たちの好きなものは分かっていました。でも図面は自分たちでは考えられないので、使いたいなという素材などは探していました。要望は数点だけでした。山田さんから提案されたものは自分たちの想像とは全然違うものでした。」(奥様)
要望としては、
・朝日が入る/家族がどこにいるかすぐに分かる/ガレージやキャンプが好き/平屋が良い/将来的に子供が3人欲しい
それに加えて雑談の中で話をした、夫が手をよく洗うということや、料理やお菓子作りの話、もともとの住まいのワンルームマンションでの生活の様子(※植物がたくさんあった)、後々にメールで送った好きなインテリア、逆に嫌いなインテリアのスクラップ写真などを総合的にこの家に取り込みながら設計案を検討、最初の提案で平屋案と2階建案の違ったタイプの2つが提案されました。
山田さんは2階建が良いとは思いましたが、そこはフラットに見てもらおうと思い、どちらにも肩入れせずに提案をされたそうです.
結果、お二人は今のスキップフロア型の2階建案を気に入り現在に至っています。先の要望の中で満たされていないのは、平屋ということだけだったようです。
「設計の過程で、なんであんなに平屋にこだわっていたんだろうと思いましたし、こんな2階建があるんだと思いました。自分たちが好きな雰囲気はよく分かっているのにうまく言葉にできていないのに、でも自分たちを分かっていたかのようにコーディネートしてもらえたと思います。」(お二人)
水回りと寝室のある2階(1.5階)までは手が届きそうなくらいに近い。確かに通常の2階建とは違う。ちょうど階段がある場所がトップライトから光で明るく、日中でも暗くなることはない。寝室の手前のカーテンがうまく部屋を隠し、それでもうっすらと見えている。要望にもあった全体が繋がった1室空間になっている。
現場が始まり 仕上げの時には、自分たちで選んだ色で壁を塗った。設計中に妊娠が分かった奥様も参加され、また両家のご家族も参加した楽しいイベントになった。
「フラットではない質感のある壁が素敵になったなと思います。大工さんが丁寧で、現場もいつも綺麗でした。来るたびに楽しく拝見していました。」(お二人)
「雰囲気や空気感でこの素材が好きだろうなとか、将来的には自分たちで飾り付けして欲しいななど、余白を残しつつうまく肉付けしていくことが出来ました。こちらからの提案も楽しんでくれていたと思います。今回また再訪して前回来た時からも室内が変化していて、自分たちで壁に新しい棚が出来ていたり、よりお二人の雰囲気になっていて嬉しいです。」(山田氏)
リビングの天井は通常の住宅より高い。そして片側の壁が合板の木目調の壁になっており、所々にご夫婦の手でで飾り付けされている。そしてその合板の素材が2階の部分まで続いている。反対側には自分たちで塗ったという緑やベージュのざらざらとした壁がある。階段は薄いブルーで、隣との目隠し塀は緑色の木の格子、外壁に使われているガルバリウム鋼板は薄い黄色ベージュで、キッチンの前板にも一部使われている。キッチン壁に使われているタイルも様々な色があり、手すりや階段にはしっかりとした木が使われている。そこに自分たちで選んだインテリアのものの色や素材。どこも楽しげで、しかもしっかりと馴染んでいる。
「白い壁はクロスの部分とリビングと寝室などの人が長く滞在する場所はモイスを素地で貼ってます。床は宮崎産の杉の厚板で、2階の天井はラワンです。無垢の杉材やモイスには調湿の効果もあるし、落ち着きますよね。素材や色が比較的多いですが、建築の空間が主張せずにご夫婦の趣向の背景になるように丁寧に設計しています。空間が繋がっているので、温熱的な配慮もしていて、階段の上にはプロペラファンがあるので、空気をクルクルと回しています。プロペラファンも主張せず一見するとわからないと思います。」(山田氏)
−実際に住み始めて気に入っているところや逆にこうしておいた方が良かったなというところを聞いてみたくなった。
「毎日気持ちよく暮らしています。最初土間(玄関)ってどう使おうと思っていたんですが、今はバイクとか車も見えるし作業なんかもできるところで気に入っています。」(ご主人)
「もうすぐ1歳の娘が楽しそうにしています。主人の職場の人たちやそのお子さんがよく来るんですが、家全体を使って遊んでいて、楽しそうですし見ていても楽しいです。壁にいろいろと釘なんかを付けることができるところも気にいっています。」(奥様)
「南側の窓からの景色は特にお気に入りです。遠くの風景が見飽きないですよ。南だけでなくて、どの窓の景色も変化もあり素敵です。」(お二人)
設計中に手のまわらなかった庭の部分が気になっている様子。一部は畑になっているが、これから全体を芝生にしようか畑をまた再開しようか、迷っているようです。
「お二人の話をお聞きすると家族やお互いの友人もよく来るようになったし、来て欲しいとおっしゃっていて、設計したこの建築が包容力のある場所になっていて嬉しいです。」(山田氏)
−インタビューに伺う前の雑談の中で山田さんからこんな話を聞いていました。
家は建築家のものというよりはその家族のもので、生活してからの方が長いから自分たちで生活を作っていて欲しい。
例えば料理にとってうつわはとても大事だけど、自分はうつわが主張しているお皿で毎日の食事でパスタやカレーを食べたくはないかなと。料理自体の背景でいいんじゃないかと思っている。普段の住宅と通じるものあると思ってます、と。
自分が陶芸家だったら料理を作る人や食べる人を見て、ある程度盛り付けされる料理などは想像するけど、あとはそれぞれの人が料理を楽しんで欲しい。ただ、料理がない状態のそのお皿自体が美しいとか丈夫というのも大事だと思うので、それも必死に考えていると思う。
たぶん、この家を一番適切にあらわしているお話だと思い、ここに書いておきます。 これから成長する家族が育む気持ちの良いおうち。毎日の暮らしの中に家族の夢がどんどん着実に育っていくのだろうと思いました。
施工:吉武建築 土地探しサポート:ミライエ
photo:Nacasa&Partners 金子美由紀 ●のみ山田伸彦建築設計事務所
interview&text:kang (support:山田伸彦建築設計事務所)