2020.12.10

修行時代のこと

師匠の影響は自分ではよく分かりませんが、大きな影響は受けていると思います.

私の師匠に言われたことで覚えていることは、デザインはもちろんですが、話し方や話す内容のことです.よく『何を話しているか分からない』と言われて、ずいぶん悩みました.一生懸命説明しているんですけどね. 新人の頃には打ち合わせの前にはA4の紙にセリフを書いて、言いたいことを暗記して打ち合わせに挑んでいました. それくらいしないときちんと話せなかったんです.2〜3年は続いたような気がします.雑誌に載っていたり、学校で話していたような建築の言葉はあまり通用しないと思いました.自分の言葉で話す必要があると思いました.ですので、出来るだけ相手に伝わりやすく話をするように今でも工夫しています.

建築事務所時代の最後の担当は[星のや竹富島]でした.それが竣工してからのタイミングで独立しました.沖縄の石垣島から船で10分程度の離島での建築で、先人たちが残してきた伝統的な建築様式の残る集落が特徴で、離島の厳しい気候や環境と対峙して、いわゆる伝統工法の建築コードがある中で、どう現代のリゾートホテルに昇華出来るかということを考えました.20代後半から30代前半の時期にこの建築に関わったことが自分の建築の背景を作っているように思います. それに加えて、制服や什器、部屋のしつらえなどにも気を配り、建築設計だけでなく、採算とデザイン、地域との関わり方や施設全体を考えることを学んだのは、非常に良い経験になっています.

星のやに行くと建築はもちろんですが、外部空間も素晴らしいと感じます. 滞在すると何も考えずにじっと庭を見ていたりして、そして見飽きないというような気持ちよさを感じます. 歩いていることも楽しいです.実は前職の建築事務所に行く前に就職前の半年ほど、この星のやを設計しているランドスケープ事務所でアルバイトでいたこともあり(就職はこちらのボスからの紹介で建築事務所に入所しています.)、お世話になったもう一人の師匠という感じでもありますが、外部空間を大事にすることも自分の中では学んだ、大事な要素になっています.建築を単体(形)ではなく、全体の関係性の中で設計することが自分のもう一つのテーマとなっています.

それらで経験した気持ちよさを住宅するときも、こども園を設計するときも、どのタイプの建築を設計するときにも、どこか常に考えながら設計しているような気がします.