2022.11.18

neo コーキョー インタビュー再録/瀬頭の家

近くを深掘るムック本 季刊「neoコーキョー」。

( http://neokokyo.com/neo-m.html )

資料:山田伸彦建築設計事務所

こちらの本に山田伸彦設計事務所が設計した『 瀬頭の家 』を雑誌で見た辻本氏から連絡があり、インタビューの依頼を受けました。N.DAYSのno.10の『 瀬頭の家 』に合わせて、WEBへの再掲載の許可をいただきNOTEの記事としています。

特集:インフラがあらわれた!—家がこわれて、見えた家

建築家山田伸彦さんと語る 『家への目線』の変化

(※下記インタビュアーさんは辻本氏で 以下 辻本とする)

建築家の山田伸彦さんは昨年(二〇二一年)ご実家のリノベーション設計をされた。そのときこう感じたそうだ。「実際設計するとなると、よく知っていると思っていた家が全然知らない場所のような感じを受けたこともあり、ある意味新鮮でした」。これは今号のテーマである〈家が違って見える体験〉に共鳴するものだと感じインタビューさせていただいた。

 「リノベーションする視点から見たとき、実家はどんなふうに違って見えましたか」 

 これらの質問を軸にお話させていただきました。山田さんの建築事務所の窓は外へ大きくひらけていて、そこから昼のよい光が差し込んでいました。

photo: Kaneko Miyuki : Nacasa&Partners

リノベーションの目線

 訪れるたび小さくなったタコ公園

辻󠄀本達也 ご実家には高校生の頃まで住まれていたんですよね?

山田伸彦 そうですそうです。小学校二年生のときに宮崎に中古の家を親が買ったんですよ。わりと築浅の家で、大阪から宮崎に五歳のときに引っ越してきて、ここには、小二で引っ越して十八歳まで住んでました。

辻󠄀本 十八歳のときまで見ていた実家があって。それをリノベーションしようと思って見たときどう違って見えたんでしょうか?

山田 そうですね。一つは、これはすごい個人的な話になるんですけど。大阪に住んでた時代にタコ公園っていう公園に行ってたんですよ。いつも行ってた公園にタコの滑り台があったんです。そこをタコ公園って呼んでたんですよね。おじいちゃんとよく行ってて。

 それから宮崎に引っ越して、引っ越してからもおじいちゃんのいる大阪に行くとまたその公園に行くわけですよ。そうすると、そのタコ公園が昔はすごく大きかったのに、行くたびに小さくなっていく。記憶ってそんなところがあって、そういうところも実家が違うふうに見えたことの一つなのかなあ、って思います。だからひとつは自分の感覚のズレですね。

辻󠄀本 自分のスケールが変わってるというか。

山田 そうそう。たとえば五歳児からするとここから荻窪駅(注:山田伸彦建築設計事務所のある駅)まで歩くっていうとけっこう大変なんだけど、中学生ぐらいになればそうでもないとか。

 実家にいたときはリビングで床に座って、こたつみたいなもので生活してたんですよ。床座というか。それが、十八歳になってからは椅子とテーブルの生活に自分がしたんで、目線が変わったというのもあるんだろうなって思います。

photo: Kaneko Miyuki : Nacasa&Partners

  専門家の物差し

山田 もうひとつは専門家的な見方を身につけてしまったっていうことですね。建築をやろうと意識してない時に実家を見てるじゃないですか。それでリノベのときは建築をしてから見てるから違って見えたっていうところはあると思います。

 たとえばここの事務所って高さが2.6メートルなんですよ。そのときに、2.6って数字であらわすとただの数字なんですけど、ぼくのなかで自分のスケールができてきている気がしていて。建築で言うと2.6の高さって「リッチな高さ」だなあと感じるんです。

辻󠄀本 そうなんですね。たしかに数字だとぼくにはわからないですが、そう言われるとすこし空間の上部が抜けてる感じがするかもしれないです。

山田 そうですよね。抜けてる。そういうところはプロの感覚になっちゃってるのかなあって。

辻󠄀本 そういうことですね。数字から標準的な高さとの差がわかったり、空間の微妙な違いに繊細になっているというか。

山田 そうです。横幅がこれだけあるなら高さはそんなにいらないとか。外が見えてるならもっと低くてもいいんじゃないかとか。人の建築見るときもそういう意識で見てるし、自分のいる場所のこともそうやって見てるし。そういう意識はすごいあるなあって。

辻󠄀本 仕事されてきたなかで、家とか建物に対するスケール感覚が体に染み込んでるっていうことですよね。

山田 それが実家を見るときに一番新鮮でしたね。そういう感覚で実家のリビングに行ったとき、すこし天井が高いなと感じたんですよ。だから下げたくて。それで他の階のことも考慮しつつ、二階はアーチを選びました。

 椅子の高さと窓辺の出窓の高さと、それから壁際のテレビ台の高さも全部四〇センチにしてるんです。そのどれにも座れるようにしているから内に体が向く。それでアーチもあるので三角屋根みたいに視線が自然に中央に向くとか。

辻󠄀本 リビングだからこそ視線を自然に中央に。

山田 そうそう。

photo: Kaneko Miyuki : Nacasa&Partners

        (中略)

  未来の時間を想像してインフラを準備する

山田 あと、テーマと近いと思うんですけど、たとえば家族の変化という話で言えば、一階に住んでいる母親が一番はじめに死ぬと思うんですよ。このリノベーションした実家の中で。だから、ここをワンルームマンションにして貸し出せるようにしてあるんです。下だけ切り離して。

辻󠄀本 えっと……一階をですか?

山田 そうです。玄関前のところに壁をつくっちゃって、トイレはあるからシャワールームだけつけて、今ハンガーパイプのところにキッチンと、あと収納つけて。

辻󠄀本 入り口はどこにするんですか?

山田 入り口はこの自転車置き場のところ。

辻󠄀本 おお!

山田 ここは基礎打ってないんです。

辻󠄀本 そこに扉の穴を開けられるようにしてあるんですね。

山田 そうです、大工さんと相談して。で、その工事だけすればワンルームマンションとして貸し出せる。それはこちらから提案しました。

辻󠄀本 未来の時間を想像して、ってことですよね。

山田 四〇年間住んでほしいから。そんときになにが一番問題かっていうとインフラがないとダメなんですよ。だからインフラだけ入れてるんです。

辻󠄀本 え、そんなことできるんですか? 先に。

山田 床下とかに排水ができるようになってるんです。

辻󠄀本 じゃあ、スタンバイされてるんですね。

山田 そうです。スタンバイした状態で終わらせてるっていう。インフラは見えないけど準備しとかないと。将来的にできるように。

辻󠄀本 そんなことができるんですね。

山田 こういうのはお節介かもしれないけど、二世帯とかだと考えてますね。新築なら電気のメーターを分けたりもしますし。

 山田さんの目線

山田 そういえば、ぼくの母親の仕事が焼肉屋だったんですよ。で、母親が二十三時くらいになると焼肉屋から家に「ただいまー」って帰ってくるんですけど、それが匂いでわかるんです。体に染み付いたっていうか、エプロンに染み付いた匂いがフーッと届いてくる。ぼくの部屋は三階建ての一階にあって、玄関に母親が「ただいまー」ってくるんだけど、帰ってきたことを焼肉の匂いとともに感じるんです。で、母親が二階にあがると、その後が全部焼肉の匂いになる。

 それで、人の家を設計するときに「この匂いってどこまでいくかな?」と考えてることがあるんです。

 たとえば玄関からリビングにルーズにつながってるとするじゃないですか。そしたらその匂いってつながると思うんですよね。それは同じ空間にいるって感じになるんじゃないかなと。この感覚はぼくの特殊な部分なのかなって思うんです。匂いとか……どこまでが自分の領域なのかっていうこと。

辻󠄀本 気配が届く範囲みたいなことですかね。

山田 そうそう。これは小さいころからずっと感じてたことで。それが具体的に染み付いてるんですよね。住宅の設計をするときに匂いで空間のことを考えてることがある。スタッフとかには言わないんですけどね。

 たとえば母親が「ただいまー」って言わずに二階にあがってても、焼肉の匂いがしたらここにいたんだなってわかるじゃないですか。そういう気配が感じられる感覚はいまでも思い出しますね。

辻󠄀本 すごく面白いです! そのような空間の原感覚を持って設計されているっていうことですよね。 今日はお忙しい中お時間いただきありがとうございました。

山田 いえいえ、ぜんぜん。こちらこそありがとうございました。

photo: Kaneko Miyuki : Nacasa&Partners