先入観を捨てて気持ちの良い場所
宮崎県宮崎市の歯科 こおりやま歯科山田伸彦建築設計事務所としての処女作であり、初めての歯科の設計でした.
小さい頃から歯科には行っているのですが、とても閉鎖的で苦手な空間でした.自分が設計を依頼されて思ったは、この苦手な部分を少しでも緩和することで気持ちの良い空間にできないかということでした.
建っているのは宮崎市の県庁のすぐ横あたりです.官庁街の無機質な建築群の中に、庁舎建築として九州で最も古い歴史的建造物の県庁や楠(クスノキ)の並木、フェニックスなどがありとても風情のある場所です.
郡山歯科として先代からの歯科がありましたが、隣接敷地に建て替えとなり、移転開業に合わせて平仮名での『こおりやま歯科』となりました.
北面以外を高い建物囲まれており南側から採光が難しい敷地でした.一方で北面に接道している(開けている)ことで、直射日光でなくまた日中の一定の照度が期待できました.
ただ、それだけでは少し暗い空間になるのが懸念としてありましたので、トップライトから光を取り入れることにしています. 直接光は治療にとって懸念材料になるため、一度2階の床面や天井懐にバウンドさせた柔らかい光を取り入れることを考えました.
また、治療中に見上げる天井を木の梁を並べ、無機質な空間となることを避け、壁を宮崎のシラスを使った左官壁とすることで歯科特有の臭いを緩和しつつ、光が当たった壁の表情を見せることも楽しいのではないかと思いました.
全体が柔らかな光の空間となることを意図しています.
外部もシラス左官壁に木製建具として、柔らかな印象となるようにしています.
前面駐車場で夜間の車のヘッドライトの光、外部からの目線、光の取り入れなどを考慮しながら窓の位置と大きさを決めています.
アプローチを含めて、ランドスケープを大事にしています. シマトネリコのシンボルツリーは建物と同じ程度に育ち、地被のへデラもたわわになっています.
バリアフリーのためのスロープが必要でしたが、良く見かけるそのまま素直に直線のデザインで無機質に作るのは無粋に思いました.スロープの設置に必要な敷地の引きも足りません.少し湾曲させることで奥行きを感じさせつつ、勾配のための距離をかせぎながら緑と絡めて解決しています. そして既存の郡山歯科への抜け道も考えています.(これで既存の歯科の駐車スペースも使えます.)
県庁に使われているレンガをデザインコードにして、駐車場の白線にしていたり、少し腰掛けできるようなベンチも設計しています.シンボルツリーは営業時間外も一定時間照明を当てており、ベンチなど含めてささやかながら街に貢献したいとも思って設計しています.
基本的には建築の設計をする前に様々なリサーチをします. ただ僕自身はリサーチでプロトタイプによる先入観のある設計をすることをできるだけ避けています.
気持ちの良い空間がクライアントにとってもちろんですが、患者の立場になると大事だと思いました. どのタイプの建築でも同じです.もちろん歯科としての機能をきちんと設計した上でのお話です.
こおりやま歯科宮崎市橘通り1丁目10-11
宮崎市橘通り1丁目10-11
0985(28)5060
建築場所:宮崎県宮崎市
建築概要:木造2階建て
床面積 :1階75.88㎡、2階45.34㎡ 計121.22㎡
text:山田伸彦建築設計事務所
Photo:見学友宙
※2016年の撮影写真をもとに2020年に再構成したものです.