No.010

愛着のある場所で建築を使い続けていくこと

宮崎県宮崎市 瀬頭の家

今回は、弊社の代表で設計者でもある山田の実家にあたります.

築年数は40年近くで、鉄筋コンクリート造3階建のビル型の住宅です.当時は母親+子供3人で暮らしていましたが、それぞれの子供が自立していました. 弟夫婦が結婚を機に実家に戻り、母親と同居しながら生活してましたが、子供が産まれ、そして子どもが大きくなってきたのをきっかけに改修を決意しました.

住宅のある場所は、宮崎の市街地からも駅からも程よく近い場所にあります.ちょうど商業地から住宅地に変わる切れ目のところにあるため利便性が高く、賑わいもある一方、静かで落ち着いた生活も出来るところが特に気に入っていたようです.

元々は3階建ての1階を母親、2階を共有リビングと水回り(浴室・洗面・トイレ)、3階を弟夫婦が使用しており、この生活スタイルは変更せず、1階に母親用のトイレと共有の収納を備え付けています.生活している上での懸念点であった温熱環境の向上のために断熱改修をしています.

今回は山田の代わりにスタッフ2人とカメラマンさんを含めた3人で改修されたご実家を訪れ、今の暮らしについてインタビューさせていただきました.

※弟世帯のみのインタビューとしており、最後に山田が補足・追記しました.

「計画する際にどんな要望がありましたか?」(スタッフ:以下Sとする)

「すごくたくさん要望があるわけではなく、基本はお任せする部分が多かったのと、改修前に不便だったところでより快適したいところを要望としてあげることが多かったように思います」

「そのなかで特にどんな要望があったんですか?」(S)

「洗面所や水回りを良くしたいと思いました.改修前はお風呂と洗面台が同じ空間にあったので、使い勝手が少し悪かったところがあり、別々に分けたいのが大きな要望としてありましたね.人がお風呂に入っていると洗面所が使えないとか.以前は狭いところと使い勝手の悪さによってお風呂にいる時間も自ずと少なくなくて快適とは言いがたかったです.

以前と比べるとお風呂の時間が増えたように思います.洗面台とお風呂を分けたことでお風呂場が広くなって、お風呂にいる時間が増えたり、子供たちもお風呂が大好きになりました.」

「他には自転車を置く場所がほしいと思っていました.子どもの自転車もそうですが、母親も自転車に乗り. 通常生活の中では自転車を使って移動するので、雨除けにもなる場所がほしいと思いましたね.」

「その他の素材や照明などは提案してもらったもので、OKで全てお任せにしました.」

前の暮らしと今の暮らしで変わったことはありますか?」(S)

「テーブルのある暮らしになって使い勝手がよくなりました.(※以前は床にちゃぶ台(こたつ)を置いて生活していた.) キッチンの前の壁を取り払いつなげたことで、リビングとの繋がりもでき動線も楽になりました.コンパクトなL字のキッチンは使いやすく、高さも丁度いいですね.たくさん料理をしようと思うようになりました」

「前は座って食べていたこともあり、何度も立ったり、座ったりするのが不便に感じていて、何かと大変だったんですよ. 」

住み始めて思ったことや感じたことなど教えてください」(S)

「断熱材を新しく追加したのもあって前より快適で暮らしやすくなりました.その分壁が太くなって面積自体は小さくなったのですが、それでも感覚的に広く感じます.壁をとったことや、丸い天井のおかげでもあるかもしれないです.今のところすべてが快適で困ることはないです. 」

「宮崎県は秋という時期が短い/無い気候なので、改修してからは寒くなる冬までは窓を開けたりして、エアコンを使わないように過ごせる環境になったと思います.」

あとは、よく人が来るようになったところですね。大きな空間がほしいということも要望であって、リビングダイニングが広くなったおかげもあり、知り合いなども呼びやすい場所になったと思います.近所の知り合いや兄弟の子どもたちを呼んだりしてパーティーみたいなこともできますね.」

「2階のリビングダイニングの天井のつくりや3階の部屋については、設計者さんに全てお任せし、その際に仕上げ含め共有して決定していきましたね.

特に2階の天井については、設計者のこだわりがあるのか、丸い天井の丸みが気に入らなかったのか、少しやり直ししたなど聞きましたね(笑)」 「家に帰りたくなり、家にいる時間が増えました. 」

「家の中でお気に入りの場所などはあったりしますか?」(S)

「窓辺のベンチはお気に入りの場所ですね。座ったりして寛いだりもしますが、知り合いやお友達を呼んだときに、子どもたちの食事スペースとして使うことができたりします。あとは趣味でもある植物を飾ったり、置いたりして、毎日見ながら過ごせる空間になっていると思います. 」

「特に窓辺などに植物を飾る機会が増えました.この家には何を置いても合うと思ったので植物を置いたりなど、置くもののチョイスの幅が増えました. 」 普段は2階を中心に暮らしていて、今は子どもたちが勉強するときは2階のテーブルでしていますが、3階は使い方を限定しないので、寝室であったり、子供がおもちゃを広げたり、走り回ったりといろいろな使い方ができます.」

「あと、階段の正面の壁が美術館のような雰囲気があって、お気に入りの場所の1つです.」

「最近では近所の方に夜2階のオレンジ色の照明の灯りが浮かび上がっているのを眺めるのが好きと言われました.外から見てもそういう反応をもらうのは嬉しいですね. 」

設計者でもある山田とのやり取りや仕事はどうでしたか?」(S)

「建築の工事が始まって、仕上げのサンプルや電気のことなどをこまめに現場で共有してもらって、そこからも自分で何度か確認したあとに、自分たちにも再度確認してもらいました. 特にやり取りで困ったこともなくスムーズにこなしていたと思います. あとは連絡がまめにあったので、こちらから何か言うことはなかったですね

今回改修するにあたって、吉武さん(施工者:吉武建築)と兄(山田)に依頼したのもあって、絶対的に信頼できる2人がペアだったので心配することはあまりなかったですね」

改修前には感じられなかった広がりのある空間と、同じぐらい感じる居心地の良さは、普段からきれいに使っているのもあって同じ空間にいて気持ちの良い場所になったと訪れてみて改めて思ったことでした.(S)

既存外観
既存2階
既存3階

山田伸彦

 この家は私が8歳から18歳まで育った住宅で、コンクリートの無断熱住宅のとても暑くて寒い家でした.育った環境で比べるものもなく当時は疑問に思うこともないですが、建築を生業にして感じたことををある意味で改めて客観的な目で見つめ直して設計しています.

●まずは断熱.基本的な性能を疎かにしては長く住めないのではないかということ.

●次に骨格(構造).将来を見据えて作り込む(※作り込まない)こと.例えば1階にも水回りを備えることで快適性を担保すること/将来の可変性を視野に入れること

●最後にどこにいても誰かしらの気配を感じれること/居場所をつくること

他の人の家を設計するときに考えることをやはり、実家でも考えました.

人通りや車通り多い道路に面していて、以前の部屋のその1階の窓は、道路からすぐで心理的にあけられない窓だったので.、1階の外壁を少し凹ませることで部屋と道路の距離を少しでもあけたかったのです.そこに障子を組み込んでより居場所としての快適性を底上げしたいなと思いました.そして要望でもあった自転車置き場を組み込んでいます.

小さいですけど、場所柄か昔から人が良く集まる家でもあったのですが、部屋としてはより気持ちよく出来るのではないかと思っていてそれぞれの階の部屋で素材や照明などを変えました.特に2階はみんなの居るところになるのでアイデアを考えました.

元々はキッチンとリビングが分けられていたので、比較的に狭いスペースがより狭く感じられてました.変更後はワンルームで家事動線を含めてスムーズにしました.ただ、キッチン内がダイニングから見えてしまうようになるので、食洗機を提案して導入してもらったり、お客さんが座りそうなところから見えない部分に収納を作ったりですっきり見える工夫をしてます.

物理的な距離感は変わらないので、心理的な距離感や視線の抜けなどを考えて設計に取り込んでいます.窓際のベンチや壁の収納の上もベンチ(座ることができる)仕様にしているので、大勢になっても床に人が座ることがないので床が見えることで部屋自体が広く見えるように考えています.天井のゆるやかな曲面もそうですが、広い面がきれいに見えることで広さを感じると思います.照明を付けていないのも同じ考えからです.

弟は植物の卸などの関係の仕事をしていますので、いつ行っても植物がたくさんで気持ちの良い空気が流れています. 3世代が暮らす時間の中で、関係や構成も変わっていくと思いますが、快適に暮らして行って欲しいと願っています.

建築情報

建築場所:宮崎県宮崎市

建築概要:RC3階建て(改修) 家族構成:親世帯:母 子世帯:夫婦+子供2人

床面積 :122.02㎡

施工:吉武建築
photo:Nacasa&Partners 金子美由紀
    既存写真のみ山田伸彦建築設計事務所
interview&text:山田伸彦建築設計事務所 森上、奥山
        最後の文章は山田伸彦