No.011

少ない手数で最大限の効果を考える

宮崎県宮崎市の住宅 神宮東の家

    宮崎県宮崎市神宮東の集合住宅の内装改修

集合住宅の改修の依頼では基本的に全体改修を基本としているのですが、今回はリビングを中心とした全体ではなく部分の改修依頼でした.クライアントの好きなインテリアイメージは明確でしたが、部分改修では全体で統一することが出来ません. また、ご要望の好きな素材を使うだけで終わるようなリノベーションであれば建築家は必要ないかもしれないと思います.

まずは好きな素材やインテリアのお話からでしたが、話をしていく中で将来的な子供の成長に合わせた使い方、現在のマンションの不満点、収納の不足等など物理的性能的な不満もちらほら. クライアントの予算や改装中の引っ越し費用の負担も考えると….

設計者としての知恵を絞り、施工者を含め3者でのアイデアを話し、施主もご協力の上で、この家は出来上がっています. 今回はあまりHP等で触れることのない建築家のコンセプトやアイデアの話、写真多めのN.DAYSです.

ご家族はご夫婦とお子さん2人に猫. お子さんは小学生と園児のお二人(2023年当時).たまたまですが、うちの子供の同級生でした.

家具や照明などはほぼクライアントさんが昔からお使いのものです.

改修前のダイニングとキッチン
改修前のダイングとリビング

改修前のお住まいはよく見る3LDKのファミリータイプのマンションで、リビングダイニングに和室を併設していました.

現状のクロスの感じやシート貼りの既成建具を変えたいということ、和室を汎用性のある部屋に将来的には寝室にできるようにしたいということでした. キッチンを含めた水回り全部は既存(再利用)のままで、他の建具で仕切られている2部屋の個室も既存のままということになりました.

改修後の図面 ほとんど形は変わっていない

予算の割り振りで、床は既存のまま(※和室のみ変更)で壁と天井の仕上げを変えることにしています.カチオンという左官の下地をそのまま仕上げとして提案してます. 比較的に安価で下地材ではありますが、モルタル仕上げのような雰囲気のある仕上がりになっていると思います. サンプルを数種類作成いただきその風合いを何度も確認させてもらいました.

キッチンカウンターの前の壁をわざと少し下に伸ばして、この位置で仕上げ範囲を向こうのキッチン側(既存の天井のまま)と分けています. キッチンまでカチオン仕上げを延ばすと既存の吊り戸などとの取り合いが多く費用が嵩むので、こういった形でデザイン的にも処理してます.

垂壁の向こうは既存のクロスのまま. 存在があまり気にならない.
垂壁は通常の壁厚より薄く. 薄い→軽く処理する

通常は間仕切り壁を取っ払って広いワンルームにする方が使い勝手があがったり、空間全体が広く見えるとは思いますが、今回はあえて仕切りを入れることで部屋を広く見せること/広く感じることが出来るのではないかと思って設計しています.

まずは収納として、木目のラワンベニアの建具(収納)を間仕切りと関係なく壁いっぱいに設置しています. ベースのカチオン(モルタル)とは違った仕上げと面のデザインで、間仕切りをまたがって部屋が続いていることを意図させています. 性能的な面で言っても物理的な収納量も今までのお住まいから、大幅に底上げしています. よりアクセントの面的な意匠を際立たせるために取手をつけなくて良いような工夫をしています.

デザイン建具は腰付の板戸にしています. 腰板の高さを70cmの板戸にしているのは、手間と向こうの床の仕上げの切り替わりを見せたくない(※手前のフローリングは既存のまま)ということに加えて、将来ベッドを置く可能性もあり、ベッドの存在をリビング側から感じさせたくないという配慮からです.

それに加えてテーブル高さの70cmとも合わせています. このラインを合わせることで空間が整然とした印象になると思って寸法を決定しています.

建具は手前のみが開くことになっているのですが、存在を軽く見せてドアにも引き戸にも見えないように既知のドアのデザインを避けています. この建具にレバーハンドルなどがつくことで、希望的に言えば建具の前が単純な通路化することを避けたかったのです. 壁にも建具にもなるデザインにしています.

光の状態で言えば、奥行きが深くに奥に光を届けることは、なかなか難しいので逆に、明暗の対比をつけて奥の暗い部分を作ることで、人は奥行きをパッと目測することが出来ないので、より奥行きを感じさせて、リビングから広くつながっているように感じるのではないかと考えました. 多目的な部屋としての個性もできたと思っています.

デザイン的にはあえて隔てることで奥行きを感じることができる. 出来てしまえばセンスの良いクライアントさんが、元から住まわれていたようなそんな建築になりました. 常に考えていたことは「数少ない手数で、最大限の効果を考えること」でした. これらのアイデアは私たちだけでなく、施工者さんやクラインさんとの話し合いから生まれたことも多く、私たちも大いに触発された部分もあります.

自分たちの生活をより良くしたいという思いやインテリアの好み、クライアントの趣向を自分の中に取り込んで、そして出来上がった共同作業論的空間になったなと思います.

施工:吉武建築
photo:Nacasa&Partners Miyuki Kaneko/金子美由紀
interview&text:山田伸彦建築設計事務所