No.005

子供がいきいきする家/建築の公共性

宮崎県宮崎市の住宅 阿波岐原の家02

お隣の両親と妹夫婦の住む家(阿波岐原の家01参照)と同時期に出来上がったお家.建築家とは高校の先輩後輩の関係だそうです.まずはどういった経緯で山田伸彦建築設計事務所に依頼をされたのか、うかがいました.

『実家が古くて、先々広い敷地を長男の私や兄妹で継いで行くと考えると色々と思うところもあり、私の結婚当初から父親と将来の話をしていて、あまり歳をとってから住宅ローンを組むこともきついなと考えていましたし、現実問題として相続のこともあったので、父親とともに重い腰をあげて隣を含めて住む場所を考えました.』(ご主人)

― 依頼する前に別のところも色々と調べたとお聞きしました−

『工務店さんや地場のハウスメーカー、全国的なハウスメーカーの展示場などを色々と見て回ったんですが、子供たちにとってどんな家が良いのかなと思ったら、迷いが出てきてしまいました. 建築家の自邸(下北方の家)も見て気にいっていましたし、平家で大きすぎない家が良いと思っていたので、もちろん後輩でよく知っていたということもありますが、何となく信頼をして設計を依頼することにしました.』(ご主人)

『私はもともと古い家が好きで、将来的にはどこか古い家を購入してリノベーションして住んでも良いなと思っていました.自然と調和した所に住みたいという希望もありましたので、主人の実家も気に入っていました. だけど大きな家は掃除がストレスになるとも思っていました. 私の実家は2階に3姉弟の3部屋があり、それが今は物置になっていまして、子供が巣立ってしまったら、家って結局は1階のフロアーだけで良いと思っていました.』(奥様)

家族ぐるみのお付き合いをしている関係で、気心を知れているのか普通の家より要望が少なかったような気がすると山田さんはおっしゃっていました.

『要望したのは土間が欲しいということとリビングは畳、(奥様は)子供を見ながら料理をしたいということ、あとはロフトみたいなスペース(これは子供が楽しいのではないかと)、長男なので将来的に仏壇を置けるようにしたいということくらいでしょうか。』(ご主人・奥様)

−気にいっているところはどのあたりでしょうか

『外からパッと入って来れる土間の感じ、窓が広いのと開けておけるので季節がいい時は風を感じます. 子供がそこ(土間リビング)でブランコをしたり、いつも楽しげだし、外と中の区別がないのも好きです』(ご主人)

『コロナでステイホーム中でも公園に行かなくても、家で完結してました.外でみんなで昼食を食べたりして.相手はどうかわかりませんが、自分たちは周りの目もあまり気になりませんね.』(奥様)

土間リビングは実家で育てたお米を置いたり、ご飯を食べたり. お客さんが多いので気軽に溜まれる場所で多目的なスペースとして設計しているそうです.

設計の打ち合わせは、山田さんの自宅の近くに当時施主のご家族がお住まいだったこともあり気軽にお互いの家を行き来しながら楽しみながら進めたそうです.

『設計の打ち合わせというより、半分はお酒を飲みに行っていたような感じでした. 手作りのおつまみを用意してもらって、いつもまったりとした打ち合わせでした.』(山田氏)

ご主人は何より仕事から帰ってきて、安らげる家が良いと言います.

『あと、見た目もかっこいいと思います.天井が高いのも好きですね. 木製の建具が季節によっては開けづらいけど、それも逆に良いなと思えるような愛着が出てきました.あと、トイレがもう少し大きかったら良かったかも. まぁ、たいしたことではないですけど.』(ご主人)

『設計の過程では、私の迷いにとことん付き合ってくれました. 迷いに対して、こういう考えでここはこう設計しているということもはっきりと伝えてもらったのも納得できて良かったです.』(奥様)

お隣と外観は統一しています.内部の素材も統一していますが、お風呂などはタイルなどで遊びたいと考え、また建築に変化をつけるため、気になるたくさんのサンプルを取り寄せて、一緒に選んだそうです.

南北に貫通する土間の素材は、山田氏はタイルなどのハードなものが良いと思ってましたが、施主はフローリングでもなくタイルでもなく土間という場所のイメージと足触りの良いものが良いと考え、相談の結果は、最終的にはパーケットフローリングに落ち着いたそうです.

『畳リビングと土間リビング、ダイニングはどちらを使っても良いようキッチンがどちらからも便利にアクセスできるように考えました.家族だけの時は土間のダイニングテーブルで、お客さんも多いのでその時は畳でちゃぶ台でとか. 実際色々な場所があることで建築がいきいきするような気がします.』(山田氏)

奥様は工事の過程も印象に残っている様子で、大工さんが作っているところを見ていて、壁や床の下地もしっかり作っているのも記憶に残っているようです. あと、木の躯体の状態から壁が仕上がっているのを見るともう少し木を残しても良かったのではないかとも思ったそうです.

『仕上げないでも良いかなと思ったくらい構造の状態でも素敵でした.』(奥様)

家を作った当初より時間が経った今の方がすごくしっくりとしてきていると言います.

『シンプルな白い壁だから、少しずつ手を入れたいなと思っています.家族の成長に合わせて変えていきたいなと. この間取りだからどのようにも活かせそうに思っているんですよね. 長女も子供部屋でやりたいこともあるみたいです.』(奥様)

『お風呂場と台所が離れているのが家事動線として不便じゃないかと聞かれることもありますけど、慣れたところもあるし、土間リビングから右と左でモードが変わるというか.お風呂や寝室に行くときに、階段をトントンと上がって、天井が低い廊下を通るのですごく落ち着くというか. そんなところも考えられているなと感じました.』(奥様)

廊下の天井の高さは1900あまり.穴蔵に潜っていくような、数字では表せない気持ちよさが確かに感じられました.

『そういえば、外部の折り曲げたベンチは設計の最後の方にご主人か奥さんが作りたいと言って、最終で設計に加えた記憶があります. 出来たら大正解でしたね. BBQをしたりとか、ちょっとした腰掛になっていたりとか、外と内のちょうど中間の居場所がもう一つ増えた気がします.息子さんはしょっちゅう窓から出入りしていたりしてますよ.隣と同じく包容力のある建築になっているといいなと思います.』(山田氏)

外のような内のような.そんな家で子供たちがいきいきと動き回っているのが、とても印象的でした.この場所で育まれるお二人のお子さん、隣の姉妹を含めた子供が伸び伸びとお互いの家を行き来していて、このまちに開かれているそんな感想を持ちました.

建築場所:宮崎県宮崎市
建築概要:木造平家建て 家族構成:夫婦+子供2人
床面積 :96.60㎡※ロフトを含む
第7回 チルチンびと住宅建築賞 優秀賞受賞

Interview&text:kang(support:山田伸彦建築設計事務所)
Photo:Nacasa&Partners 金子美由紀