No.006

モノの居場所/余白のある家

宮崎県宮崎市の住宅 丸山町の家

宮崎の中心市街地から程よい距離に建つ鉄筋コンクリート造の住宅.気持ち良く晴れた休日にうかがいました.

『そろそろ建てたいなと思っていたらいつの間にか7,8年経っていました.でもそんなに積極的に探していた訳でもなく、必死に探し始めて割とすぐにこの土地に出会えました.』(ご主人)

『山田さんに依頼するにあたって自分がどんなインテリアが好みかを調べましたが、調べれば調べるほど分からなくなりました.私は家事の中で工程の多く感じる洗濯が苦手です. よく考えたらデザインとかでなく、リビングに洗濯物を出さない/洗濯を畳んで収納する動線のスムーズさ、家事の裏動線など、家事のことを含めた考えの要望を満たすことが家づくりの第一の条件でした.』(奥様)

−設計の前に施主さんがお住まいのマンションに行った時の印象が強いと山田さんは言います.

『3人のお子さんがいらっしゃって、いわゆるよく見かける3LDKのマンションにお住まいでした.キッチンも十分広いとは言えないところでしたが、全体にモノがきっちり収納されていて、すごく整理整頓されていて、綺麗でした. 食事もその時にいただいたのですが、言い方は悪いですがあの普通のキッチンからどんどん料理が何品も出てくる.これはすごいなと.せっかく設計するからには、特に奥さんの生活がストレスなく美しくある家にしたいなと思いました.』(山田氏)

『設計の段階が楽しかったです.毎回の打ち合わせに、ワクワクしました. 模型がたくさん出てきたのにも驚かされました. よく話し合って、みんなで作っていった感じがするから楽しかったのではないかなと思います.山田さんはよく話を聞いてくれたと思います.』(奥様)

要望は、奥様は主に家事動線のこと/モノの位置を決めたいということ/モノを生活スペースに出したくないということがほとんどで、形や広さの要望はほとんどなし、けれどピンタレストなどで好きなイメージは随時、建築家に送っていた. 設計依頼する前にピアノは購入していて1年保管、これをリビングにおくことは設計の前提条件としてあった.

一方旦那さんの要望は、庭のことと駐車場(屋内2台分)が欲しいということ、それに和室が欲しいということだけだったそう. もともと鉄筋コンクリート造の住宅で育ったそうで、鉄筋コンクリート造ということも設計の始まる前に最初に出された設計の前提条件だったようです.

『私は要望を丸投げして、全て叶えてもらったように思います. 子供たちは(裏動線の)迷路みたいな所も楽しいみたいです.』(奥様)

『人に住所があるように、モノの住所(住居)を設計したような気分もあります. 改めて設計が新鮮で奥さんの考え方も楽しかったです.自分もレベルアップしたような気にもなりました.』(山田氏)

–山田さんのホームページの住宅を見ると屋根型の住宅が多いと思います.

今回の住宅では箱型でコンクリートの外観が目を引きました.–

『コンクリート造だと、絶対ではないですが多くはこのような形(箱型)になるので、私の作ってきた中では珍しいのかもしれません.
住宅では初めてのコンクリート造でした.
私が一般的に宮崎で設計する木造住宅だと屋根をかけて水(雨)を素直にどう流すかをまずは考えます.
コンクリートは存在としてすごく強いので、この威圧感を和らげるようにコンクリートの塊を5つに分けて、打放しと白で塗装することでより分節して見せています.キリッとしていて施主の雰囲気と合うかなと.』(山田氏)

-キッチンも部屋になっていますけど、ダイニングに適度に開いたセミオープンの形ですね.

『これも相談して決めた記憶があります. すごくキッチンが好きで、ほとんどの時間をキッチンにいます.テレビもここから見ているくらいです.あと、庭の照明も含めて全体の夕方から夜の照明もすごく良いですよ.』(奥様)

『リビングのソファに座ってビールを飲むだけですごく落ち着きますね. 色味のある階段室と2階の壁と天井の色も良かったです.あと階段の横のコンクリートの壁も.』(ご主人)

建築家は現場が出来上がってきて内部空間が見え始めたときに、玄関からの動線からは垂壁で見えない、2階の壁や天井に色をつけたらどうかと思い、施主に提案したそうです.

『コロナの関係で2ヶ月くらい宮崎に帰れなくて、現場に行ったらいきなり空間が出来あがっていました. 素材も含めてスタイリッシュでかっこいい空間になるなとは思ったのですが、2階の天井や壁を塗装すれば家族のスペースからしか見えないお楽しみのような建築インテリアになるのではないかと思いました. お客さんからは見えないのがある意味面白い、光が当たるとより面白いだろうと.あとは現場中に子供部屋の前の廊下で、第2のピアノスペースとして考えていた部分を、雲梯をつけた運動スペースにしたいと言われて、だったらここも色で塗ろうと思いました. そんな過程も楽しかったですね.』(山田氏)

設計の過程で驚いたところはありますか?

『全部. 本当に全部驚きました. アイデアがすごくいいから、その都度なるほど と思い、いつも新鮮に驚かせてもらいました.子供部屋を自分たちで好きな色に塗ろうと仰ってもらって、2色で決めたのは良いけど迷っていたら、フリーハンドで絵を描くようにしたらと言ってもらって、家族みんなで塗ったその壁もステキでした.』(奥様)

お子さんは3人. ピアノは皆が演奏するため毎日3時間くらい鳴っている.

リビング床の1段低くなったところに置かれていて、リビングの一角にあるのだが、すっきりと馴染んでいる.キッチンとダイニングテーブル、ソファとピアノがすんなりと同居していると感じる.

『もともと生活感を出さないホテルっぽい感じが好きでしたが、とはいえ出来てみると何もモノが出ていなくて生活しにくいかなと思ったけど、そうでもないです。当初の1週間だけは慣れなくてホテル気分. でも今はめちゃくちゃ寛いでいます。すごく使いやすいです.』(ご主人・奥様)

『床のタイルもすごくいい. フローリングにしていたらまた全然違っていたと思います.より傷がつかないように気を使っていると思います.そして以前の住居よりも面積が大きくなったから、より歩くようになりました.下の子供はおもちゃのバイクで移動していますよ.』(奥様)

設計の過程でリビングの窓の高さのことが懸案として出てきたそう.

『旦那さんから窓を大きくしたいと言われました.1.5層くらい吹き抜けている南側の窓を、目一杯開けたいと言われました.僕はそれだと光が入り過ぎるし、隣からも見られるし落ち着かないと思いますと伝えました. 意見はある期間平行線でしたが、最終的には信用して任せてくださいとお願いしました.』(山田氏)

『窓は今のままで正解でしたね.カーテンも下さなくても夜を過ごせますし.この絶妙の高さが落ち着きますね.』(ご主人)

『将来的にはお友達がいっぱいくる家にしたい.冬でも友達を呼んでBBQしたいんですよね.外も気持ちいいです.』(ご主人・奥様)

シャープさと温かみのある建築. ものがなくすっきりしているけど、冷たい印象はない. 色やコンクリート、木の素材感のインテリアと、所々に施主のセンスを感じる物や生活. 長く暮らす家のしっかりとした骨格(コンセプト)をもった生活がどう変化していくのか楽しみである.

建築場所:宮崎県宮崎市
建築概要:鉄筋コンクリート造2階建て 家族構成:夫婦+子供3人
床面積 :234.30㎡

Interview&text:kang(support:山田伸彦建築設計事務所)
Photo:Nacasa&Partners 金子美由紀