No.007

モノと家との関係性 小さく住む

宮崎県宮崎市の住宅 吉村町の家

実家の建て替えにあたり、息子夫婦は生まれ育った実家に戻りご両親との同居を決意.親世帯と子世帯の完全分離の2世帯住宅を新築されました.
ちょうど取材翌日がお子さんの運動会という日のよく晴れた午後に取材を兼ねて建築家さんと訪れました.※子世帯のみのインタビューとしています.

家を新築するにあたって、全国的なハウスメーカーや地元で人気の工務店を見学、最終的に山田伸彦設計事務所に相談に訪れたそうです.
『家のことを調べ始めて、いろいろと見て回りました.結構どこもそれなりに金額が思ったより高いなと思いました.予算のこともありますが、実家が古くなってきて両親の介護も問題ありそうだし、住宅ローンを組むタイミングも今かなと思いました. 他社さんの提案にピンとくるものがなく、どうせ高い買い物であるし自分らしい個性のある家が良いと思い、建築家への依頼も検討を始めました.』(ご主人)

『最初にハウスメーカーや工務店さんを回られらたのち、まだどこにするかを迷っているということでしたが、山田伸彦建築設計事務所に相談にいらっしゃいました. 実際に設計プランを出さないと何とも言えないですが、他社さんが提案していらっしゃる予算よりはかからないだろうと思いました.要望もすごくシンプルでしたし. 考えられている予算がマストだと思っていました.ただ、完全分離だと水回りはそれぞれ2つあるため、普通の住宅とは違い余計費用がかかるので、単純でシンプルな形に納めてコンパクトに建てれば予算内で何とかなるのではないかと考えました.』(山田氏)

第一回目の提案は2階建、平屋建、その折衷案で予算に合うように建築家はまずはプランを見てもらおうと思ったそうです.それから話始めても良いのではないかなと. また事前情報としてプランを出す前に、建築家の自邸をはじめ、設計した住宅を4,5件見てもらいました.

『住宅設計の場合には、だいたい設計を始める前に設計した建物を何軒か見てもらうようにします.ホームページの写真では伝わらないような生活した後のイメージもつきますし、大きさや予算感もだいたい伝わりますので.』(山田氏)

平屋案に決まってからはすんなりと設計は進んだそう.親世帯の介護のこともあり一緒に介護の設備を見に行って、器具の確認をしたりなど密に連絡を取り合って懸念点を解決していった.結果として最終の見積もりでは、考えていた予算より100万円程度少なく出てきた.

『特命(※)で工務店を予め決めてプランをしていたことで、予算調整はやりやすかったです.素材や形はこちらにするとこれだけ金額がかかるなど、できるだけ合理的に説明することを心がけました.ただ、私としてはそれだけではない、情緒的なことが生活には大事だと思っていましたので、ご家族の趣味であるキャンプの要素を予算内での面白みの部分として提案しましたし、旦那さんや奥様も打ち合わせを楽しんで受け入れてもらえたと思っています. 最後の方はどちらかというと、こんな生活したいなど逆に施主からの提案もあったり、そんな楽しい話ばかりだったような気もします.』(山田氏)

打ち合わせで、プロに決めたら任せると思っていただいたのか設計、現場とスムーズに進んだそうです. 建築の中で特徴的なのはこの床や壁. 普段はあまり見かけない素材が使われている.

『壁と天井はラワンベニア、床はフレキシブルボードです.ラワンベニアは古くからある材料で、下地に使われたりもします. 私としては風合いがとても好きな材料の一つです. 好きなところに釘を打ち付けて何か飾り付けても良いですし、フレキシブルボードは強度のあるセメントを主原料とした材料です.あまり床には使われないですが、リビングダイニングを土間のようにしたいイメージもあったので提案しました.どちらも将来、飽きたりしたら上から別の材料を張ることも考えられますし.お好きなキャンプのラフさも感じるかなと.』(山田氏)

-ただ、ラワンベニアは色味を合わせたりするために倍のロットからベニアを選り分けをしたり、扉も同じ色味に合わせるために同じ工場から建具屋さんに材料を支給したり、出隅などで異種の素材が取り合うところのディテールは綿密に設計しているそうです.

『シンプルに見える建築ほど気を使いますね.今回は全体がラワンになるので、イメージがつきにくいと思うのですが、私もここまで大体的にラワンを使ったことがなかったので、全体と部分のバランスがより気になりました. 設備や把手や金物の色とか家具のデザインや素材含めて、建築がうるさくならないように考えました.』(山田氏)

−細かい要望などはありましたか?
『土間みたいなところが欲しいということ、共働きなので掃除がしやすいということ、あとは窓を開けるのが好きなので、風を通したいということでした.私(ご主人)は朝が早いので、一人で早起きして本などを読める書斎のようなスペースもあると嬉しいなと思いました.』(ご主人・奥様)

書斎スペースは子供と共有スペースとして、リビングからも子供部屋からも行ける位置に設計した.

日中はお二人とも働きに出ているので朝日の差し込む東側(南東)に出窓を設けて、朝の時間を大事にしてもらいたいなと山田さんは考えました.所有しているキャンピングカーを道路の庭側に駐車することで、道路を歩いている人の視線を避けるような提案をしています.駐車スペースが4台必要だったということもあり、塀で囲ったりするよりは自然にプライバシーを確保できるのではないかと考えたそうです.

『小さいお家になることは予算の関係もあり、あらかじめ了承いただきました. 最初の私の印象のご家族の仲の良さや柔らかい雰囲気がこの提案できっと大丈夫だろうと思いました. 私の自邸(20坪弱)も見に来られて大きさの感覚は掴めていたと思いますが、新築にあたりご家族は不要なモノを減らす決意をされました. お持ちのモノを手放し、必要なモノを厳選しはじめ、そして逆にお持ちのキャンプ道具を生活の一部に使ったり、新しく購入する家具を選ばれたり. モノが出ていても・モノとの関係性が建築を作っているようにしたいなと、私の設計も少しづつ変わっていきました.』(山田氏)

『出来た時もそうですが、家具や食器などのモノが入って印象が変わりました.モノが出ていても良い家ってあるんだなと思ったりもしました.そして出ているモノに気を配るようになりました. 今は仕事が終わったら早く家に帰りたいと思います. 夕方ごろの外からの家の見え方も好きですし、照明のついた部屋の感じも好きです.』(奥様)

ブルーのラグは奥様がもともとお持ちのもので、設計段階で使いたいと聞いていた.テーブルなども半分屋外のようにお日様の動きに合わせて移動しながら好きな場所で食事できるようなイメージも建築家にはあったようです.シンプルでプレーンな床にラグを敷くことでも居場所は作れるのではないかと考えたそうです.所々にお花が飾られていて、それに様々なキャンプ用品がチラッと見える.自分たちで空間を楽しんでいる様子がわかる.

『この太い柱は、建築本体を支えるのには楽にはなりますが、実際はなくても構造的には問題ないです.この柱でキッチンとダイニング的なスペースが緩やかに分けられるのではないかなと思って入れています. 何となく強い要素があると良いなと思ったので太さも通常より少し太く.成長の証として身長を刻み込んでも良いかなと.』(山田氏)

バレーを習っているお子さんはネットの高さを想定して、目印を柱に印して日々ここでジャンプの練習をしているそう.

『丸テーブルは方向性がないし、大人数にも対応できると提案していただき、一緒に選んで良かったですね.この前は友人家族とそれぞれの子供たち、最大11人が一緒にここで食事しましたが、全然狭くなかったですよ.』(奥様)

『どんなふうになるかわからなかったですが、床はすごく気持ちいいですね.あとは自分たちで塗った子供部屋の水色もすごく良かった.リビングからチラッと壁が見えて色があると何となく和むというか. そして外からの目線などもほとんど気になりません.』(ご主人)

『完全分離の2世帯ですが、将来的なことも考え、子供部屋の壁を取り除くこともできますし、ご兄弟がもしかしたら住むかもしれません. こういった将来を見据えた話もしているので、どのように変化していくのかは楽しみにしています.』(山田氏)

最後の3枚のみ親世帯の写真

※特命
建築の見積にあたって、信頼のおける施工社をあらかじめ1社に決めて見積徴収する方法.

建築場所:宮崎県宮崎市
建築概要:木造平家建て 家族構成:親世帯:夫婦 子世帯:夫婦+子供1人
床面積 :122.02㎡

Interview&text:kang (support:山田伸彦建築設計事務所)
Photo:Nacasa&Partners 金子美由紀 (最後の写真のみ高橋菜生)